日が暮れた。
僕と佐伯は、降りしきる雨の中ヘルムートの別荘へ向かった。


「驚いたな」
ヘルムートが言った。
「まさか、情報部を出し抜いて、本当に逃げてくるとはね・・・納屋は燃えたそうじゃないか。君たちが火をつけたのか」
「まぁね。手違いでひとり殺したものだから」
「・・・そんなことだろうとは思ったが。まあいい。革命に血はつきものだ」
ヘルムートはにやりとした。

「その手は?怪我をしたのか」
「ちょっとね。拘束されていたんだ」
「手当てをしよう」

ヘルムートは救急箱を持ってくると、中から消毒薬と、包帯を取り出した。
シャツで作った包帯を外すと、血で染まった左手が出てきた。
「ひどいな」
ヘルムートは佐伯の手に、そっと唇をつけた。

「何のマネだ」
佐伯が言った。
「別に。独逸のおまじないだよ」
ヘルムートは言って、それから消毒を始めた。

僕は壁にもたれたまま、腕組をしてその様子を眺めていた。
ヘルムートの様子は変わらない。
こないだの件を気にしていないのか・・・。
そうならいいが。

手当てが終わり、ヘルムートが3人分のワインを用意すると、
「革命の成功に」
そういって、ワインを掲げた。
「革命の成功に」
佐伯と僕が口々に言い、ワインを飲み干した。

ワインの空瓶は見る見る増えて、床に転がった。
「ヘルムート?」
さっきから、ヘルムートの様子がおかしい。
呑みすぎたのだろう。
笑いが止まらないようだ。

「あっはっは!俺は俺自身を笑っているのさ!とんだ御人好しかげんにね!サエキ、俺は君を信じていた!心底、信頼していたんだ・・・黄色くて汚い日本人なんかを!!」
「どうしたんだ急に」
佐伯は穏やかに尋ねた。
「俺が知らないとでも思うのか?君が<魔術師>だったんだな?」

「ヘルムート」
「気安く呼ぶなよ。俺はこれでも貴族なんだ・・・君は俺を騙した・・・ずっと、俺の気持ちを利用して、騙し続けてきたんだ・・・」
ヘルムートは佐伯に銃口を向けた。
だが、ヘルムートの両目からははらはらと熱い涙が零れていた。
「俺は君を許さない・・・絶対に、許さない・・・」
ヘルムートの銃を持つ手は震えていた。
そして、銃口は一瞬迷った後、僕に向けられた。

「まず君が死ね」
ズガーーーン!!!
銃声が鳴り響いた。

これまでか。
僕は目を瞑った。











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