かすかに、飛行機のエンジン音がした。

はっとして、空を見上げると、上空に敵機が一騎、浮かんでいた。

「危ない!」
俺は、立ち上がると、猛然と椎名の身体にタックルをした。
椎名は不意をつかれ、仰向けに倒れこんだ。
続けざまにミサイルを打ち込まれて、爆弾が炸裂し、辺りは昼間のように明るくなった。
俺の背中でも爆音がして、俺と椎名は10メートルほどふっとばされた。
夢中で椎名を庇ったため、俺は自分の背中が燃えていることにも気づかなかった。

「真島!背中に火がついてる!」
その声で我に返り、俺は椎名を離すと、砂浜を転げまわった。
それでも火はなかなか消えず、俺は海に飛び込んだ。

ほうほうの身体でキャンプに戻ると、キャンプは無事だった。

「一騎だったし、恐らく偵察機だろう。ただ、威嚇しただけだ。本気じゃない」
椎名は自分のテントに俺を連れて行くと、服を脱がせて、背中の手当てをした。
「痛い」
「・・・馬鹿な奴だ。どうして俺なんかを庇ったりした」
椎名が冷たい口調で言う。
だが、その声は掠れた。

「俺は・・・お前を捨てたんじゃない・・・お前が来なかったから、捨てられたんだと思って、街を出たんだ」

「しつこいな。昔話はもういいよ。別にあんたを追いかけてきたわけじゃない。たまたまここに配属されただけだ」
包帯を巻きながら、椎名はそういった。
「認めるんだな?あんたは神永だ・・・」

「・・・認めたって、何も変わらないよ。俺はもう空っぽなんだ。あんたに捨てられて・・・目が覚めた。最初から、俺の未来には真っ黒な孤独しかなかったんだ」
包帯を巻き終わると、椎名は自嘲気味に笑った。


「手当てをありがとう。お礼がしたい」
「なんだ?」
怪訝そうな椎名の顔を包み込み、唇を奪った。
殴ろうとする椎名の手をかわして、
「おっと。怪我人は労わってくれよ」
「どこがだ!図々しい」
「俺は嬉しいんだ。君と別れて、空っぽになったのは俺だけじゃなかった・・・」

そして、お前は目の前にいる。手を伸ばせば届くんだ・・・。
俺は椎名を抱きしめた。椎名の体温、椎名の鼓動。
そして、椎名の声。
冷たく、氷のような椎名の心を、俺が溶かしてみせる。







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