「実井、どうした。元気ないな」

食堂で、小田切に声をかけられて、実井は視線をあげた。
「また波多野と喧嘩でもしたのか?」
「まぁ、そんなところですよ」
「喧嘩するくらいなら、少し離れたほうがいいのかもな」
慰めるように小田切が言う。

少し離れる・・・。あいつと?
考えられない。

「小田切さんは福本さんと喧嘩しませんよね」
「福本と喧嘩?・・・ないな。あいつが大人すぎて、喧嘩にはならない」
「大人すぎる、か。波多野はガキだから・・・」
小田切には聞こえないように小声で言ったのに、
「ガキか・・・波多野はちょっと気難しいところがあるからな」

聞こえていた。
小田切は真面目に相談に乗ってくれているようだ。
相談?
俺は相談しているのか・・・。

だが、小田切は福本と寝ているわけではないだろう・・・。
見たところ、福本の片思いだというのが、一般論だ。
小田切は、自分では知らず、残酷な鈍感さを発揮していることになる。
それとも、その鈍感さは演技なのだろうか・・・?

「小田切さんは、福本さんのことをどう思ってるんですか」
「どうって?別に、好きだよ」
「好き?」

実井は、実井を庇って怪我をした波多野から告白されたことがある。
「ずっと、お前のこと、好きだったんだぜ・・・」
と。
だが、小田切の好き、は、そういう意味ではなさそうだ。

「スキって、どうしてですか」
「なんでって・・・いつも助けてくれるし、作る飯はうまいし・・・」
おかんか。

噂によると、小田切も孤児だそうだから、母親的なものに飢えているのだろう。
それに、父親的なものは、ここでは結城中佐が満たしてくれる・・・。

「貴様だって、波多野のことが好きなのだろう?」
「まさか」
実井はびっくりして否定した。
「そんなの、ありえませんよ。僕が波多野を好きだなんて・・・」

そのとき、丁度入り口に立っていた波多野と目が合った。
波多野は、きびすを返して立ち去った。







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