「そんなの、ありえませんよ。僕が波多野を好きだなんて・・・」

実井の言葉がショックだった。

実井によると、俺は死にかけた際に、実井に告白をしたらしい。
となると、完全に俺の片思い、というわけだ。

「片思い・・・かぁ」
何度も肌を重ねてもなお、片思いだというなら、肌を重ねることにどれほどの意味があるというのだろう。
足元が崩れていく感じだ。
通じ合えたと思ったのは錯覚だったんだ。
そう思うと、いつにもまして孤独を感じる。
ひとりになりたい。
そう思った。
実井は俺を傷つける・・・。それだけは確かだった。

「波多野」
実井
が扉を開けて入ってきた。
「なんだよ、入ってくんな」
「・・・何を怒ってるの」
実井の声は静かだった。
怒ってる俺のほうが悪いみたいだ。

「俺のことなんか好きでもなんでもないんだろ?ほっとけよ、もう」
「そんなことで怒ってるの?」
「そんなことって・・・」
「僕が誰を好きだろうと、どうでもいいじゃない」
実井は、腕を組んだまま、そう言い放った。
「どうでも・・・よくねぇよ・・・」

「じゃあ、どっちがいいの?君を好きな僕が他の誰かに抱かれるのと、他の誰かを好きな僕が、君に抱かれるのと」
「・・・なんだよ、その妙な選択肢は」
どっちも最悪だ。
心と身体がばらばらに引き裂かれている。
それとも、平気なのか?

「とにかく、俺のことが好きになれないなら、これ以上はもうやれないよ」
俺は宣言した。
「自信はないの?自分を好きにならせるっていう」
実井が軽蔑したように言った。
「お前がなくさせたんだろうが・・・」

俺は小さな声で呟き、実井から目をそらした。
見つめていれば、いずれ取り込まれる。
そんなことはわかりきっていたからだ。
実井は可憐な少女のような眼差しで俺を見ていたが、やがて俯くと、部屋を出て行った。

なんでこんなに胸が痛むのだろう・・・。
これが失恋、というやつなんだろうか。
暴れたいような、わめきたいような、絶望的な気分に支配されて、俺は唇をかみ締めた。



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