「そういうことなら、俺たちも部屋を出ているよ。終わったら呼んでくれ」
秋元が言った。
「なんだと?」
葛西が声を上げる。
「僕もそうするよ。葛西、愉しんで」
中瀬は言って、甘利の足を離した。

「良かったのか?ふたりきりにして」
扉の外で、秋元が中瀬に言った。
「宗像は戻りたそうだな」
と中瀬が言った。
俺はじろりと睨んだ。
葛西一人で甘利を襲うのは無理だ。
それはわかっている。
だが、甘利が葛西を襲うことはできる。

「心配なら戻れば?さっきの甘利さんを見たろ?葛西が抱きこまれてもおかしくない」
と秋元が言った。
「葛西はそんな奴じゃない」
俺は言いながら煙草に火をつけようとマッチを摺った。
「どうだかな。実際、葛西は変わったよ。別人みたいだ」
中瀬が言った。
「変わった?」
「ああ。以前なら甘利さんを襲うなんて考えなかったろう。考えたとしてももっと回りくどい戦法を使ったはずだ」
中瀬は言い張る。
確かに、以前真島を落とした時には、もっと時間を掛けていた。
結城さんのときも、回りくどすぎて気づいてもらえなかったんじゃないかと踏んでいる。
葛西は小賢しいところがあるから、なんでも理詰めで、およそ衝動的ではなかった。
だが、今度のことは、恐ろしく突発的だ。
網にかかった小鳥に襲い掛かる猛禽類のようだ。

「静かだな」
秋元が言った。
「寝ちまったんじゃないか?」
と中瀬。
「それならいいがな・・・」
俺は暗い声で言った。
俺には、葛西の喘ぎ声も、目を細めたあのときの顔も、はっきりと見えていた。

葛西は甘利に抱かれているかもしれない。
その疑いだけで、俺は打ちのめされていた。






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