「おい、動かねーから、手を離せ」
甘利が言うと、中瀬と秋元が手を離した。

「なにを」
口を開きかけた葛西の頭を、甘利は腹に押し付けて抱いた。
「悪かったよ、無神経だった」

まるで秋元や中瀬、そして俺などその場にいないように、甘利は葛西を抱きしめる。
「君は捕虜になったんだろ?無意識にそれを再現しようとしてる。繰り返し見る悪夢みたいに、自分に降りかかった出来事を繰り返しちまうんだ」
「なにをいってるんだ」
「気の済むようにしろ」

俺ははっとした。
それは、俺が三好を襲ったときに三好が示した反応と、同じセリフだったからだ。
そうして、寝たあと三好は、
「お前は優しかったよ」
と言った。ガキ扱いされた俺は、一期生との力の差を見せ付けられた気がした。

第一、甘利はどうして葛西が捕虜になったことを知っているんだ。
葛西は身体を起こすと、甘利のベルトを外そうとベルトに手を掛けた。

「待て。葛西、よせ」
俺は葛西の腕をねじる様に掴んだ。
「どうして止めるんだ?今、気の済むようにしろって」
「やったところでどうせ、甘利さんは傷つかない。傷つくのはお前だけだ」

甘利に言われて気づいたが、葛西は新見にされたことを再現しようとしている。
だがそれは、いつまでも過去を忘れないということだ。新たに傷口を抉るということだ。傷つくのは葛西のほうだろう。
「何を言ってるんだ?宗像。怖気づいたのか?」
葛西の細い目がギラギラと怒りに満ちている。
暗闇の中でも、漏れ来る光に反射して、光っていた。
「そんなんじゃない。こんなことは無意味だと言っているんだ。もっと別の方法で、俺たちは一期生に勝つべきだ」
「奇麗事を」
葛西は俺の手を振り払うと、再び甘利のベルトに手を掛けた。

「本当は僕が甘利さんとやるところを見たくないんだろう?宗像、部屋を出ていろ。終わったら呼ぶ」
葛西の声は、冷ややかだった。







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