部屋に戻ると、葛西がひとりでベッドに眠っているようだった。

甘利は波多野が連行したようだ。
俺はいささかほっとして、ベッドに入った。

秋元も中瀬もそれぞれベッドに入っている。

「卑怯だな、宗像」

寝ていると思った葛西が口を利いた。
「起きていたのか」
「僕が甘利と寝るのが気に入らないのなら、邪魔をすればいいのに、波多野を寄越すんだからな」
「別に波多野さんを寄越したつもりはない」
「どこまでやったか聞かないの?」
「興味はない」
葛西は背中を向けていたが、寝返りを打ってこっちを見た。

「嘘つき」
「貴様は別に、俺の気をひく為にそうしたわけじゃないだろう?」
俺は思わず言った。
葛西の態度が女そのもののように思えたからだ。
「自惚れるな」
「目の前であんなことをされて、俺がなんとも思わなかったとでも思うのか?貴様は」

「宗像」
秋元の声がした。
「痴話げんかなら外でやれ。俺たちは眠りたいんだ」
「すまん」

共同部屋というのは厄介だ。喧嘩もままならない。

「貴様はいつも、肝心な時には助けに来ない・・・手遅れだ」

葛西の言葉は心に刺さった。
俺が助け出した時、葛西は既に満身創痍だった。
俺は間に合わなかったのだ。

葛西は俺を試したのだ。
葛西は俺を待っていたんだ。いじけて煙草を吸っている俺を。

俺はまたしても試験に失敗したのだ。
葛西の冷たい二つの目を避けて、俺は目を閉じた。





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