「三好。俺の子供を産んでくれ」


あれは本心だろうか。それとも、いつもの冗談だろうか。
湯船に浸かりながら、僕は考えていた。

脱衣場に人影があった。
からりと戸が開いて、小田切が顔を出した。
「み、三好か?」
うろたえている。

「別に入っていいよ。混浴だってあるだろ」
僕は憮然とした。
「いいのか?だが・・・しかし・・・」
「恥ずかしがられるとこっちまで恥ずかしくなる。普通にしてくれ」
僕は言った。

小田切は蛇口をひねって、桶に水をためた。
その頬は赤い。
「まだ、その・・・元に戻らないのか」
「結城さんの仕業じゃないみたいだからな。当面このままだ」
下手すると一生かもしれない・・・。
「結城さんはなんて?」
「子供を産んでくれといわれた」
「はぁ!?そ、それはまた・・・」
小田切はうろたえている。

「こんな事態に驚かないなんて、さすが結城さんだ」
と僕が言うと、
「結城さん・・・何を考えているのだろう・・・こんなときに、貴様を口説くなんて・・・」
小田切は顔を洗い始めた。
「結城さん、子供が欲しいのか・・・」
「まさか、本気で産む気じゃないだろうな!?」
ぎょっとして、小田切が僕を見つめた。
「馬鹿な考えはよせ!貴様は男なんだぞ?耐えられるはずがない」
「小田切・・・」
「身体は、そりゃあ、ちょっとぐらっとくる感じだが・・・」
小田切の視線が、僕の顔から下に下りていった。
僕はなんだか身の危険を感じて、胸を両手で隠した。
「す、すまない!目に入ったんだ」
小田切ははっとして顔をそむけ、桶の水をざばりと頭から被った。







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