「失礼、お嬢さん。おひとりですか」
早速、気障ったらしい長髪の若い男が、花に声をかけた。
色白で整った顔立ちだが、多少危険な香りを身に纏っているタイプだ。

「兄たちと参りましたの。でも、先に帰ってしまって」
と花が答える。
「よければ、一緒に飲みましょう」
「えっ?でも・・・兄たちに怒られてしまうわ」
「先に帰ったのでしょう?帰りは送りますから大丈夫」
男は花の腕を掴んだ。

「貴様、その手を離せ!」
いきなり、目の前に波多野が躍り出た。

「犬!いたの」
と花。
「誰が犬だコラ!・・・痛い目みたくなかったら・・・」

「痛い目だと?君みたいなチビが、一体なにができるっていうんだ?こいつ、君の知り合い?」
「ええ。私の犬です」
「だから犬じゃねーっつってんだろ!」

波多野が吼えた。花は困ったような顔をして、

「ここまでついて来るなんて、知らなかったわ。ごめんなさい。私、犬と帰ります」
「ちょっと待ってくれよ」

男は花の腕を掴んだまま、その身体を引き寄せた。
顔を覗き込むと、人形のような麗しい顔が、すぐそこにあった。
思ったとおりだ。この女は、利用できる・・・。

「君は門限なんか気にするタイプじゃないだろ?僕たちと一緒に遊ぼうぜ」
いつの間にか、人だかりができていた。ほとんどは、男の仲間らしかった。
波多野と神永、そして花。
3人を取り囲む輪は、じりじりと狭まってきた。

「神永、マッチあるか」
「え?マッチ?」
「ここはビアホールだぜ?燃料になるものはいくらだってある」

波多野は壁に飾られていたウイスキーを取ると、マッチの火で引火した。
「おい・・・何する気だ・・・?」
男の形相が変わる。
「こうするんだよ!」

叫んで、波多野はウイスキーの瓶を、キッチンに向かって放り投げた。



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