「なんか、小田切と福本が、見たこともないような美人を連れて出てったけど、貴様、知ってるか」
と神永が言った。

「・・・馬鹿が。貴様の目は節穴か?・・・あれは実井だ」
「え?・・・あ、あれが?」
「あの程度の変装を見破れないなんて、貴様、終わってるぞ」
「どこへ行くつもりなんだ・・・?まさか、3人で・・・」
「ホテルだと!?」
「いや、誰もそんなこといってねーけど」

神永に掴みかかった波多野の腕を振り解き、神永は、
「俺たちも後を尾けようぜ」
と言った。


振袖を着た生娘に化けた実井を、男たちが振り返ってゆく。

「しっかし、色っぽいよな、実井の奴・・・素人には見えないし、かといって芸者の着物じゃないし・・・不思議な感じだな」
と神永。
「こんな夜に普通の娘がうろうろしてたら嫌でも人目を引くさ。奴ら、何をたくらんでやがるんだ」
と波多野。


実井らは一軒のビアホール<鸚鵡亭>に入っていった。

「実井・・・じゃあ、変だな。名前を考えようか」
と福本が言った。
「名前なんて、どうでもいいわ」
と実井。
「花、でどうだ。単純だが」
と小田切。
「それでいいわ」
と実井、いや花は答えた。

隅のテーブル。メニューで顔を隠しながら、小田切たちの様子を伺っていると、
「わかった」
唐突に波多野が言った。
「あいつら、実井を使って、美人局をするつもりなんだ」
「美人局?」
「女に手を出したとかなんとか因縁をつけて、金品を巻き上げるんだよ」
「・・・福本はともかく、小田切がそんなマネするかね〜」
「見ろよ。実井だけ残して席を立ったぜ」

見ると、女がひとりだけ、席に座っていて、二人は姿を消していた。

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