秋元の奴。
お茶でも誘うみたいに、気軽に寝ようという。
そのたびに僕がどんな気持ちになるか、知りもしないで。

「暗い顔ですね〜中瀬さん。どうかしたんですか?」

瀬尾さんに気づかれるほど顔に出ていたか。
僕は思わず苦笑した。

「なんでもないよ。少し、疲れてるだけだ」
「疲れてるんですか?これなんかどうですか?」
瀬尾さんは怪しい液体を差し出した。
「なにこれ」
「マムシ酒ですよ。元気が出ますよ」
「マムシ酒?」
見るからに毒々しい色をしたそれは、ビーカーに入っている。
「いや、いいや・・・もう元気になったから」
「どうしてです?大丈夫ですよ。飲んでみてください」
「いや、ほんとにいいから」
僕が断ると、瀬尾さんは残念そうにビーカーを机の上に戻した。
「残念。せっかくの実験材料が」

やっぱり。僕で実験するつもりだったんだな。
瀬尾さんには常識がないから、気をつけなければ。
「実験って、なに?マムシ酒じゃないの?」
「え?ええ・・・ええまあ、実はその・・・」
瀬尾さんはごにょごにょと言葉を濁した。
「飲んでみてよ、瀬尾さん」
「え?お、俺がですか?」
「せっかくだから、ね?」
「ええ、でもこれは・・・その・・・飲みます」
瀬尾さんは覚悟を決めたらしく、ぐいっとそれを飲み干した。

「う〜まずいっ!!で、でも大丈夫ですよ、ほらね」
瀬尾さんは無理に笑顔を作ったが、その笑顔は引きつっている。
顔が赤くなり、青くなり、最後に白くなった。そうして、泡を吹くと、倒れた。

「瀬尾さん!?」
僕が慌てて駆け寄ると、瀬尾さんは目を回したまま、
「だいじょうぶ〜だいじょうぶれす〜」
繰り返しそういって、そのまま意識を失った。







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