「顔色が悪いな」
宗像にそういわれて、僕は否定する。
「今日の訓練のことを思えば、顔色も悪くなる」

着衣のままの水泳。
1キロ離れた無人島までの往復だ。
海風が強く、水は冷たい。

「水が嫌いなんて、猫みたいな奴だな」
と宗像。泳ぎには自信があるのだろう。
「着衣のまま泳ぐなんて、キチガイ沙汰だ」
「じゃあ、結城さんにそう言ってみろよ。家に帰れる」
「ほざけ。僕はもう合格なんだ。こんなところで失点するわけにはいかないよ」

早く、潜入先が決まるといい。
そうなれば、こんな馬鹿げた訓練からも解放される。

各自、準備体操をして、一列に並んだ。
一番遅かったものは、翌日も同じ訓練が待っている。

ピストルの合図で、全員飛び込んだ。見れば、全員並んでクロールだ。
宗像、秋元のふたりは早く、中瀬が少し遅い。恐らく中瀬が最後だろう。
最後にならなければいいので、僕はマイペースで泳ぎ続けた。
衣服が纏わりついて、思うようには進まない。それは皆同じだ。

結城さんは僕を燃やしたのだろうか?
僕はなにかにつけ三好と比べられ、対抗心を煽られて、三好に近づいていく。
なにかあったときの替え玉ってなんだ。
まるで、なにかあることが確実みたいに。
魔王には予知能力があるのだという噂だが、本気にはしていない。
未来を予見できるものなど、存在しない。

冬の海は身を切るように冷たい。
必死で泳ぎ、なんとかターニングポイントの無人島までたどり着いた。
ここで、5分休憩して、また泳いで戻る。
宗像も、秋元も、砂浜に仰向けになり、息を整えている。
やはり、中瀬が最後だ。
だが、振り返ると中瀬の姿は、見えなかった。
「中瀬・・・?」

溺れたんだ!僕は砂の上を走り、海に飛び込んだ。








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