「くしゅん」
僕は、くしゃみをした。
誰か、噂してるに違いない。

「風邪か?」
同室の中瀬が、振り向いて尋ねた。僕は首を振る。
「大丈夫だ」

「明日は水泳訓練だ。風邪なんかひいてたら大変だ」
「水泳か。服を着たままのやつだろう?萎える」
「ほんと、結城中佐ってサディストだよね」
中瀬が、顔に似合わないことを言う。
「サディストかぁ・・・まぁ、そうだろうな・・・」

こないだの尋問訓練。見ているだけで鳥肌が立った。
自分の番はいつくるのかわからないが、来ないことを願う。
自白剤を打たれて、自分のことをぺらぺらしゃべるなんて、ぞっとする。
尋問された中瀬は、そのあと病院に運ばれた。

「結城中佐のことが好きなの?」
「スキって言うか・・・尊敬してる」
「尊敬なら皆してるけどね。でないと、こんなとこ、1日で逃げ出すよ」
中瀬が笑った。

「三好先輩に憧れてるの?綺麗だもんね、あのひと」
「憧れてなんかいない」
「じゃあ、どうして真似をしてるの?」
「むこうがしてるんだ」

「僕は思うんだけど、君は三好先輩に似てるから採用されたんじゃないかな。きっと、危険な任務の時に替え玉になるか、先輩になんかあったときに替え玉になるか、そんなつもりで」
「なんだと?」
僕は不快な声を出した。僕が三好の代打?そんなつもりで結城さんが僕を採用しただと。

「君が三好先輩の真似をするのは、君が知らない間に、結城さんに燃やされているからなんじゃないの?きっと、操られて、いるんだ・・・」

馬鹿なことを、そういおうと思ったが、声が出なかった。
貴様は、三好に似てるな・・・。
そんな声が、いつも耳の奥でしていたのだ。
貴様は、三好、そのものだ・・・。







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