「葛西のこと、どうするんですか」
福本が尋ねると、結城はにやりとして、
「なかなか面白い奴だ」
と答えた。
「答えになっていませんよ。あれは、本気ですよ」

「若いな」
結城は珍しく頬杖をついた。
思案している顔だ。

「他の学生を抜け駆けして、一足飛びに卒業したいと申し出たのだ。だから、多少の無理を言ってみたのだが・・・本気にするとはな」
「頭がいい割に、世間知らずなんでしょう。まあ、そこが可愛いといえば可愛いですか?」
「俺に振るな」
めんどくさそうに、結城は右手を振って見せた。

「三好の真似までして貴方に気に入られようとするなんて、なかなか泣けるじゃありませんか。近頃はもう、見分けがつかないくらいだ」
「それはそれで使い道がありそうだな」

「なんでも、賭け事をしてるらしいですよ、貴方を落とせるかどうか」

「くだらん」
結城は興味なさそうに、ファイルを開いた。

「だが、約束は約束だ。真島を落としたのだから、奴の赴任先を決めないといかんな」

「もうですか?こういっちゃなんですが、ああ世間知らずでは、トラブルになるだけですよ。とても一人前とは・・・」
福本は眉をひそめた。
福本の言うことももっともだ。
「だが、世の中に出してみなければ、世間知らずは治るものではない。条件は皆同じだ。自分で、経験を重ねるより方法はない。たとえ、失敗してもな」

「可愛い子には旅をさせよ、ですか?」
福本の嫌味も、結城は聞き流した。

えこひいきするなといいたいのだ。
一期生の中で、葛西の評判はすこぶる悪い。
だが、あいつはどこか、昔の三好を彷彿とさせる・・・。








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