「葛西」
僕がノックもせずに部屋に入ると、宗像が驚いた顔で僕を見た。
「戻ってきたのか?」
「荷物を取りにきただけだ」
「荷物を?いや、しかし・・・」
僕は引き出しの中から目当てものを取り出すと、鞄に詰めた。
「元気か?どうしてるんだ」
「元気だよ。なにいってんだ、隣の部屋だぞ?」
僕はおかしくなって、笑いながら宗像を見た。
「それはそうだが・・・」
「訓練でも会うだろ。遠くへ越したわけじゃなし、妙な心配はするなよ」
「寂しいんだ。貴様がいなくて」
宗像は、心底参った顔をしていた。
「大げさなんだよ。貴様が妙なマネをしなくなったら、僕だって戻らないでもない」
すると、宗像は背後から僕を抱きしめた。
「好きなんだ」
「だから、よせって」
「行かないでくれ」
「お邪魔だったかな?」
秋元だ。戸口のところで、腕を組んで、こちらを見ている。
「戯れてただけだ。なんでもない」
僕は宗像の手をふりほどき、鞄を持った。
「結城さんに直訴したら、一人部屋は空きが出来次第考えてくれるそうだ。風呂は、すぐにでも交代制にするってさ。案外、ものわかりがいい」
「ついでに二期生を差別するのもやめてくれるといいけどな」
と僕が言うと、
「なにか考えがあってのことだろう。発奮するとかね」
と秋元が言った。
「単なるえこひいきだよ」
と僕は言った。
配られる物品も、なにもかも一期生のお下がりだ。
弟じゃあるまいし、勘弁して欲しい。
「同じ条件なら、こっちのほうが上だ」