「いつからいたんだ?」
宗像が言った。

「<俺は、毎晩貴様の寝顔を見て、我慢してるんだ>あたりから」
秋元は言った。

あのやりとりを聞かれていたと思うと、恥ずかしくて死にたい。

「宗像。葛西を困らせるな。同室の男にそんなことを言われたら、葛西だって困るだろう。葛西、なんなら部屋を替わるけど?」
「えっ・・・」
意外な申し出に、だが、確かに部屋を替わってもらえれば、宗像の危険な妄想に巻き込まれずに済む。

僕は思わず宗像を見上げた。背の高い宗像は、小柄な僕から見ると、ちょっと巨人みたいだ。
「好きにしろよ」
投げやりに言って、宗像は壁から手を外すと、腕を組んだ。

「ほら」
秋元が差し出した手を、僕は掴んで、身体を起こした。
「大変だな」
どういう意味なのか、秋元はそう呟いて、僕の頭をぽんとはたいた。


秋元の同室は、中瀬だ。やはり小柄で、可愛らしい顔をしている。
D機関員には珍しく目が悪いので、丸眼鏡をかけている。髪はさらさらのお坊ちゃん風。年齢より若く見える。
「秋元と部屋を替わったんだって?なんで?」
中瀬が尋ねた。
「しばらくの間だけだ。落ち着いたら・・・戻る」
「宗像と喧嘩でもしたの?珍しいね。仲いいのに」
「まあ、そんなかんじ」
言葉を濁して、僕はベッドを整えた。
他人のベッドを使うのは気がひけるが、贅沢はいえない。

秋元と宗像。うまくいくだろうか。
秋元のベッドは、秋元の匂いがした。
秋元は親切だ。いつも、さりげなくフォローしてくれる。
今度、食事でもおごってやろう・・・。

目を閉じると、今度は宗像の顔が思い浮かんだ。
宗像、怒っているだろうな・・・。自業自得だ。







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