田崎は眠ったようだ。本当に寝てないのだろう。
甘利が激しすぎて、寝かさない・・・か。よく言うよ。
その言葉だけで、いらぬ妄想が俺を苦しめる。
田崎を抱く甘利の、野獣のような顔や、抱かれる田崎の、恍惚とした顔。
それはいつの間にか、俺の下に組み敷かれ、悶える田崎の、妖しい顔にすりかわっている。

俺は何本も煙草を吸い潰し、灰皿にくべた。
濃い水割りのせいで、いささか酔いも回っている。眠たくなってもよさそうなのに、田崎がいると思うと、意識が妙に冴えて、眠れそうもなかった。

これは、ミイラ取りがなんとやら、だな。

健やかな寝息を立てて眠る田崎を恨めしい目で見つめながら、俺は煙草の空き箱を握りつぶした。

煙草もなくなったところで、することもなくなり、俺は田崎の横に仰向けに寝そべった。
ダブルサイズのベッドがひとつしかないので、そうするしかなかったのだ。
確かに、言われてみれば、田崎の顔にはくまのような跡がある。

甘利が激しすぎて寝かさない・・・。

その言葉は呪文のように俺の頭をぐるぐると回り続けた。

「俺だったら、そんなにひどいことはしないのにな」
田崎は聞いてはいないが、俺は独り言を言った。
「ちゃんと、お前が眠くなったら寝かしてやるし・・・セックスも週に3回くらいでいいし・・・お互い忙しいんだからな」
いや、3回はちょっと少ないか・・・。

「お前、このまま甘利の相手してたら、いつか身体壊すぞ」
半分負け惜しみだったが、俺は続けた。

「だから、俺にしておけよ・・・」

「神永」
急に声がした。田崎の黒水晶のような目が、俺を見つめている。
「お、まえ・・・聞いていたのかよ」
「うるさいから目が覚めた。俺は眠りが浅いんだ」
ダブルベッドに並んで横になりながら、田崎は囁いた。

「そんなに言うなら、試してみる?」
「試すって・・・なにを」

「セックス」
田崎はなんでもないことのように、それを告げた。
俺の心臓はトクンと跳ねた。

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