しばらく寝顔を眺めているうちに、むらむらと欲望が湧いて来て、俺は水割りのグラスをサイドテーブルに載せると、ベッドの上に載った。

田崎のきれいな寝顔。
整いすぎた高い鼻梁に、切れ長の眼。薄い唇。
俺は、その唇に自分の唇をゆっくりと合わせた。

歯列を割って、舌を潜り込ませる。
そのとき、田崎が眉根を寄せて、薄く眼を開けた。

「・・・貴様・・・神永・・・?」
「目を閉じてろよ。そのうちに終わるから」
再びキスしようと唇を寄せると、その口を田崎の掌が塞いだ。
「待って。違うんだ・・・神永。貴様を誘ったつもりはない」
「何を今更言い訳・・・」
「言い訳じゃないんだ。最近、甘利が激しすぎて・・・寝かさないんだ。それで・・・」

それで、「最近ひどく眠いんだ」なのか・・・。
俺は自分の目がすうっと細くなるのを感じた。

「お前、甘利の名前を出せば、俺が引くと思ったんだろう?」
「貴様には悪いが、俺は・・・貴様と寝るつもりはない」
「あぁ、そうかよ」

まぬけだ。
勝手に誘われたと思い込み、田崎をホテルに連れ込むなんて。
田崎は文字通り、ただ眠りたかっただけなんだ。

俺は一瞬、頭の中で、無理やり田崎を犯した場合のシュミレーションをした。
だが、田崎はただ眠いだけで酒に酔っているわけじゃない。勝算は五分だ。
例えそれに勝ったとしても、俺は田崎を自分の下に組み敷く代わりに、大切なものを失う。
仲間、というものを。
田崎も甘利も、一緒に酒を飲めるような仲間だ・・・。失いたくはない。

「そんなに寝たければ、もう邪魔しないからゆっくり寝ろよ」
俺はいましがた考えたことをおくびにも出さずに、優しく言った。

「本気か?」
さっき寝込みを襲われたせいか、すぐに信じる気にはなれないらしく、田崎は怪訝そうだ。

「俺と寝る気になったら教えてくれ。俺は起きてる」
わざと軽い口調でそういって、俺は田崎に背中を向けた。
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