「最近やたらと眠いんだ・・・」
ホテルのバーで、二人で飲んでいると、田崎が眼を瞑り、眠そうに言った。
「眠い時は眠ればいい・・・」

ふたりで眠れるところに行こう。
俺はそう囁いた。


ホテルの部屋に入ると、田崎は本当にベッドに突っ伏して、寝てしまった。
少し期待はずれの俺は、仕方なく、田崎の靴を脱がせると、ネクタイだけを外して、首のあたりを緩めてやった。

誘われたと思ったのは、俺の勘違いか。
苦笑しながら、スーツを脱いで、ハンガーにかける。
煙草をくわえながら、ひとりで水割りを作った。

寝ている田崎は、眠り姫のように麗しい。いや、王子か。
白い喉元が、微かに動いている。

それを眺めながら、水割りを飲む。
少し濃い、その酒は、俺の心の底に溜まっていくようだ。

欲望は眺めることから始まる。
眺めること自体、すでに前戯の一部なのだ。
俺の心は、既に田崎の服を剥ぎ取り、その肢体を愛撫し始めている。

だが実際は何も起こっていない。
俺はただ、奴の身体を眺めているだけ・・・。

水割りを片手に、椅子に後ろ向きに腰をかけて、俺は田崎を見つめている。

こんなに無防備な田崎を見るのは初めてかもしれなかった。
いつも、隙のない身のこなしで、人を食ったようなところのある田崎は、およそ弱みをさらすということがない。
むしろ他人の弱みを掴んで、自在に操るイメージだったのだが・・・。

こうして、目の前で眠っている田崎を見ると、いつもの大人びたイメージのほうが、創られたものではないのかという疑問が湧いて来る。
まだ年若い青年の素顔。

水割りを口に含むと、ほんの少し苦い。
まるで貴様のようだよ、と俺は人知れず呟いた。


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