夕方、帰宅すると、三好が出迎えた。

いつもと変わらない様子だったが、その日の夕飯の時、3人で食卓を囲んでいると、二人とも無言だった。
「どうした。やけに沈んでいるな」
俺が言うと、三好は、
「えっ?そんなことはありませんよ。ねえ、城田くん」
「は、はい」
城田は真っ赤になった。茶碗を持つ手が震えている。

このふたり、できたな。

俺は無言で酒を呑んだ。


「出かけるんですか?」
三好が驚いた声をあげた。
俺はひとりで支度をしながら、
「急用ができた。参謀本部に戻る」
そういい捨てて、家を離れた。

家にいたら、三好と城田を殺してしまいそうだった。
嫉妬に囚われるのは、愚かなことだ。
若い城田を雇った時既に、その可能性については気づいていたのに。


家を空けて3日後、急を知らせる知らせが届いた。
三好が、死んだ。
庭の池に顔をつけた状態で、発見された。
城田が白状したところによると、三好は身体と引き換えに、阿片を要求したらしい。城田は大学の悪い連中からそれを買い、三好に与えたという。
阿片で陶酔したところで、転んで池にはまり、わずかな水で溺れたのだろう・・・。

だが、それも、もともと仕事にかまけて三好を放っておいた、俺の責任だ。
三好は、自分の言うとおり、俺のことが好きすぎて、ついに壊れたのだ。
寂しさから麻薬に手を出し、それに溺れた。
ちょっとした油断から、世間ではありがちな罠に、ついに囚われたのだ・・・。


俺がD機関を設立せしめたのは、それから19年後のことだった。
俺はその一期生の中に、三好を発見し、なんともいえない思いに囚われた。
過ぎ去った年月、若かった自分、そして、尚若すぎた三好の過ち・・・。
それらの夢が、走馬灯のように脳裏を駆け巡った。

「結城さん。どうしたんですか?じっと僕を見つめて」
猫のように吊り上がった目が、俺を覗き込む。
それは懐かしい、変わらない、三好の目だった。

「変な結城さん」
可愛らしく小首をかしげて、三好は笑った。
そこだけ日が差すような、明るい微笑だった。












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