「城田くん、どうしたんですか?茄子は好物でしょう?」
食事の箸をとめて、三好が尋ねた。
「もしかして、口に合いませんか?」
「いえ、とんでもない・・・美味しい。です」
城田は無理に茄子を飲み込み、噛まずに飲み下した。
「そんなに慌てて食べなくても、僕はせっついたつもりじゃないんですよ」
「すみません・・・」
城田は赤くなった。

「結城さん、お酒はおかわりしますか」
「ああ、貰おう」
俺はひとりで酒を飲んだ。

三好はかいがいしい上に、よく気がつく。
男にしておくのは惜しいくらいだ。
どこで覚えたのか和食はひととおりこなせるらしい。
出されたものが失敗していた、ということもほぼない。
むしろ、和食の店で出してもおかしくないほど、丁寧に作られている。

一緒に暮らしてみないとわからないことはある。

城田は使用人なので、一緒に食卓を囲むのはおかしいが、学校のないときは、三好と二人で食事をしている。そのほうが、安心といえば安心だ。
だが、人間、食事を一緒にするということは、それだけ親しくなるということだ。
二人の間の夫婦のようなやりとりに、軽い嫉妬を覚えながら、俺は酒を飲んだ。

「どうしたんですか?」
今度は俺に向かって、三好は尋ねた。
「不機嫌そうな顔をして・・・傷が痛むんですか?」
「いや、そんなんじゃないよ」

「仁王様みたいな顔で、ひとりでお酒を飲んでないで、少し城田くんに付き合ってもらったらいかがですか」
「いえ・・・僕は、学生ですから」
城田はびっくりして、辞退する。
学生でも、20を越えていれば酒は呑めるわけだが、好きなほうではないのだろう。
それに、俺と飲むのは気が引けるに違いない。

「そうですか?つまらない。僕が20なら相手をするんですが。飲んでもいいですか?結城さん」
「駄目だ。ここはドイツじゃない」
俺はにべもなく言った。

「ほらね。僕じゃ駄目なんだから。城田くん、少し結城さんのいない間に、酒の稽古でもしませんか?」
「えっ・・・酒の稽古?」
「飲む練習ですよ。僕、お酌ならできますから」
「三好。くだらんことを言うな」
俺は苦い顔をした。
三好は、年の近い話し相手がいて嬉しいのか、飲んでいるみたいによくしゃべる。

「ほら、結城さんは怒るから、結城さんには内緒で、ね?」
三好は子供みたいに可愛らしく舌を出した。
「僕はそんなこと・・・」
俺の顔色を伺いながら、城田は言った。
「とてもできない」

「結城さんが怖いんですか?城田くん、案外だらしないんですね」
何気なく言った三好の冗談に、城田は少し傷ついた様子だった。













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