三好のことを放っては置けなくなった俺は、三好に監視をつけることにした。

丁度金に困っている学生で、住み込みの出きるものを雇い、三好の監視に当たらせた。名を城田という20歳の青年だ。

家に他人がいるのはわずらわしいが、背に腹は変えられない。

城田は夜間大学に通っているが、昼間は空いており、その時間を三好の監視に当てることができた。
俺もなるべく帰宅するようにこころがけ、仕事も家に持ち帰るようにした。

ひとつは、三好の監視の為であるが、もうひとつは、城田と三好をふたりきりにしておくのは気になったからだ。
我ながら了見が狭いと思うが、俺は実に嫉妬深い。
年が近いこともあって、意外なくらいにうちとけた二人を見ていると、くだらない考えが頭を過ぎらないでもなかった。

参謀本部にいても仕事が手につかず、それならばいっそのこと家に持ち帰ったほうがはかどる。

城田は、美青年というほどではないが、わりあい整った横顔をしており、趣味は植物のスケッチをすることで、温厚そうな目をしている。
元は裕福な青年だったようだが、実家が没落し、画家への道を断念したらしい。
今は国語の教師を目指して夜間大学に通っている。

三好の趣味は美術であり、ふたりは話が合うようだった。


ある日、少し早めに帰宅すると、縁側に腰をかけて、城田がスケッチをしていた。
また草花でも映しているのかと、何気なく覗き込むと、はっとして身体をすくめ、ノートを隠した。
「なぜ隠す」
「いえ・・・下手ですから・・・」
「見せろ」
奪うようにして、ノートを取り上げると、中を見た。
「これは・・・」
三好の横顔だった。デッサンが荒い割には、タッチは生き生きとしており、そこには愁いを帯びた大きな瞳の、今にも動き出しそうな三好がいた。

「すいません・・・三好さんがあんまり・・・だったものですから」
たどたどしく侘びを言って、城田は耳を赤くした。

あんまり、綺麗、か・・・。
実際、三好ほどの題材は、そうないだろう。
画家を志したほどの者なら、三好の美貌に心を奪われても不思議はない。
画家とは、美を追求するものだ。


「君は、三好に惚れているのか」
俺は低い声で尋ねた。
「いっ、いいえ、とんでもありません。僕はそんなっ・・・」
城田はおどおどと否定して、ノートを奪うと、逃げるように庭を出て行った。








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