「もし、僕の存在が、結城さんの邪魔にしかならないのだったら」

「僕はすぐにでもこの世からいなくなる算段をするでしょう」

そういった翌日の朝に、三好さんは池の水に顔をつけて事切れていた。

それを見たとき僕は、これは自殺だと思った。
三好さんは、結城中佐の邪魔になるまいと思って、自殺をしたのだ。
だが、その事実は残酷すぎる。
僕はそのことを自分ひとりの胸にしまって、誰にも言わなかった。

僕が殺したようなものだ。

三好さんは恐らく、阿片によって、正常な判断ができなくなったのだろう。
その阿片を運んだのは僕だ。
結城中佐はそのことについて一言も責めなかったが、

「君には世話になったな」
そういわれたとき、心臓を射抜かれたような気がした。

責められるよりも辛いのは、責められないことだった。
結城中佐は知っているのだ。
僕が、三好さんになにをしたか。
三好さんを失って、結城中佐の目は光を失ったように見えた。

愛していたのだ、深く。
そう僕に思わせるほどに。


遠くへいこう。
そう思って旅に出た。
旅といっても、線路をやたらと歩く、というだけの、ほとんど飲まず食わずの旅だ。
だが、どれだけ遠くへ離れても、三好さんの死に顔が浮かんで、僕を苦しめた。

君には世話になった・・・。

「え?」
結城中佐の声に惹かれて、後ろを振り返ったとき、すぐ背後には黒い汽車が迫っていた。

「人をはねたぞ」

人の肉体は、魂の入れ物に過ぎない。
いつか、三好さんはそういった。
汽車にはねられて、草叢に倒れた僕を、僕は空から見ていた。

肉体は死んでも、魂は残る。

強烈な白い光に包まれて、僕は母の胎内のような、懐かしい安らぎを覚えた。














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