「どうした、やけに沈んでいるな」
夕飯の時、結城中佐が言った。
「えっ?そんなことはありませんよ。ねえ、城田くん」
「は、はい」
三好さんと僕はそういったが、会話は続かず、沈黙が支配する。
僕とのこと、結城さんにばらされてもいいんですか?
そういって、三好さんは僕を脅した。
だが、三好さんがばらさなくても、結城中佐の目は全てを見透かすかのように、空を睨んでいた。
僕はそれが恐ろしくて、茶碗を持つ手が震えた。
急用ができた、と言い捨てて、結城中佐は仕事に戻った。
僕と三好さんは取り残された。
「気づかれたんじゃ・・・」
僕が言うと、
「大丈夫。結城さんは仕事にしか関心のないひとだから」
三好さんは冷たくそういって、前髪をかきあげた。
翌日、僕は苦労して学校の友人から阿片を調達すると、持って帰った。
三好さんは子供みたいに喜んで、
「わあ、ありがとう。城田さん、本当に、よく手に入りましたね」
そういって、僕に抱きついた。
「結城さんは今日は帰らないそうだから、ゆっくり楽しめるな」
長いキセルに阿片を詰めると、三好さんはぷかりと煙を吐き出した。
「城田くんもやりますか?」
「いえ、僕は・・・結構です」
「そう?・・・なんともいえないいい気持ちになりますよ・・・辛いことなんて全部忘れてしまうし・・・夢の中にいるみたいにふわふわして」
三好さんの目は、夢見るようにうっとりとなった。
「あんまりやると、身体に毒ですよ」
「僕は死ぬことは怖くないんです」
唐突に、三好さんは言った。
「肉体は死んでも魂は死なない。そのことに気づいたら・・・肉体なんて、単なる魂の入れ物に過ぎませんよ」
「僕にはそうは思えません」
「もし、僕の存在が、結城さんの邪魔にしかならないのだったら」
三好さんはキセルをとんと叩いた。
「僕はすぐにでもこの世からいなくなる算段をするでしょう」
随分不吉なことを言うな、とそのときは思っただけだった。