「そこまでだ」
声が響いた。
「真木から離れろ・・・偽者め」

ピストルを持って立っていたのは結城中佐だった。
真木は驚愕した。さっきから自分に覆いかぶさっているのも、確かに結城だ。
結城中佐がふたり。
どちらかが偽者であろう。

「動くな」
ピストルを持って立っている結城中佐にクラウスはピストルを向けた。
咄嗟に、真木は勢いよく目の前の結城に似た男を突き飛ばした。
男は転がり、クラウスにぶつかった。
クラウスは尻餅をついて、ピストルは天井を打ち抜いた。

結城中佐は早撃ちで、クラウスのピストルを弾き飛ばした。
「ううっ」
クラウスが右手を押さえた。
結城の顔をした男は再び体勢を立て直すと、真木に襲い掛かってきた。
真木は思い切り相手の腹部を蹴り上げて、それから両手を組むと脊髄に振り下ろした。男はくず折れた。
白目をむいている。気絶したようだ。

「君たちの祭壇に花が咲くことは無いぞ・・・」
苦痛にそのハンサムな顔をゆがめたクラウスは言った。
「お互い様だ」
結城中佐は言って、真木を立ち上がらせると、大聖堂を後にした。



「ドッペルゲンゲル?」
「つまり影武者だ。顔の似ているものを手術し、ホンモノと入れ替える。周りは誰も気づかない。いつのまにか家族が入れ替わっていることもある」
ローゼン通りの真木の部屋。
暖炉の火は赤々と燃えている。

「僕がホットワインを買いに行った後、なにがあったんです?」
「貴様が戻ってきた。俺の腕を引いて、もっといいところにいこうと」
「いいところ?どこへいったんですか」
「まあ、それは枝葉のことだ。俺は途中で貴様じゃないことに気づいて、乱闘になった。思いがけず強くて、あやうくとどめを差すところだった。なんとか部屋に戻ってくると、お前は居ず、ポストカードが床に落ちていた訳だ」

「そんなに似ていたんですか?」
「似ていた。だが俺は気づいた。あんな偽者に気づかない貴様は」
「気づいてましたよ。チャンスを伺ってただけです」
「ほう?ならどうして気づいた」
「あの男、片足をひきずっていました。ホンモノの貴方なら、あの状況で足を引きずるマネはしないでしょう。悪くないんだから。それとキスの仕方が違った」

結城中佐は渋い顔をした。
「あれは貴様の落ち度だ」
「結城さんこそ、僕の偽者とよろしくやってたんでしょう?」

真木はテーブルの上に皿を置いた。
「料理というのはこれか」
薄い黒パンにチーズを挟んだだけのサンドイッチだ。

「浮気者にはこれで充分ですよ。もったいないくらいだ」











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