「貴様・・・よくも」

「おやおや、プレゼントはお気に召さなかったのかい?お姫様」

真木は勢いよく殴りかかった。それをかわし、クラウスは、
「おっと。暴力は良くないな」
そういいながらも、ひらりと短剣を引き抜いた。

死闘が始まった。
二人はもみ合い、転げまわりながら、お互いを殴り、傷つけ、また殴った。

数分後、勝負はついた。
クラウスが真木の上に馬乗りになり、その白い頬に光る短剣を押し当てた。
「美しいものは皆儚い」
つーっと、真木の頬に赤い血の線ができた。
「君にもわかるだろう?苦労して集めた美術品が、年月を経て劣化していくのはたまらない」
「ほざけ。サディスト」
「サディストはご挨拶だな。・・・君に会わせたい人がいるんだ」

クラウスが口笛を吹くと、祭壇の陰から一人の男が現れた。
左手が腕から先が無く、右手に手袋をしている。
目は虚ろで、どこか遠くを見ている。

「僕が平和主義者だって、これでわかったろう?」

男はよろめきながら、片足を引きずるようにして近づいてきた。
そして、クラウスを押しのけるようにして、真木を掻き抱いた。

「やれやれ、美しいね、君たちの愛は。自白剤を打ちすぎてこの男は廃人同然なんだ。なのに君のことは覚えているみたいだ。いや、感動したよ」
言いながら、クラウスは立ち上がり、大げさに拍手をした。

「ただ残念だけど、君たちの国と違って、ドイツでは同性愛は精神疾患の一種と教えられている。つまり、君たち二人の愛は、単なる精神病患者の戯言というわけさ。
幸いにもドイツの精神病院にはその手の患者がうようよしているよ。
一生手錠でつながれて、精神治療を受け、恋人には二度と会えないけどね。
これで君も<真っ黒な孤独>から救われるね・・・?」

男は真木の唇に口付けると、勢いよく白いシャツを引き裂いた。




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