「やあ、また君に会えたね」

工事中と書かれた看板をくぐって、ベルリン大聖堂の中に入ると、中には荘厳なステンドグラスの美しい祭壇があった。
その中央に、祭司のように穏やかな顔つきの金髪碧眼の青年が立っていた。

「貴様は、クラウス・レーベンバッハ」

クラウス・レーベンバッハ。本名アルベルト・シュペーア。ヒトラーの側近である。

「ノイシュヴァンシュタイン城では随分と世話になったね。君を探すのに少し手間取ってしまった。今日はクリスマスだからね。奇跡とでも言うかな」

クラウスは、ナチス親衛隊の軍服を着込んでいて、黒いロングブーツを履いている。
内気そうな蒼い目は輝いていた。

「彼をどこへやった」
「あの日以来、僕は君のことが忘れられなくなった」

祭壇の階段を下りて、クラウスは一歩、真木のほうに近づいた。

「やはり君は金髪よりも黒髪のほうが似合うじゃないか。とても綺麗だ。
真木克彦は日本人なんだってね?我が同盟国日本が、なぜ同盟国であるドイツに潜伏しているのかな?そのわけを聞かせてくれないか」
「同盟国だと?」
「ヒトラー閣下も感心しておられた。日本人は劣等民族のくせによく働くと」
「その貴様たちの腐った優越感が日本を戦争へと駆り立てたのだ」

「おやおや、僕らのせいのするのは筋違いじゃないか?
文明開化以降明治政府の元で日本は、明らかに好き好んで他国を侵略している。まるで欧米列強の真似事だけどね。第一次大戦のきっかけは日露戦争だよ?君たちは勝利のワインに酔いしれたようだが、残念ながらあれは我々の金で勝ったようなものだ。イギリスも少しは出資していたようだがね」

「そのロシアとも同盟を結んだドイツはどうなんだ。まるで節操がない」

「君の口から節操などという言葉を聞くのは面白いな。ドイツは誰とでも手を組む、たとえそれが共産主義の下種どもや、東洋の猿だったとしてもね。手の内のカードは多いほうが良いだろう?」

「念願のパリを占領してさぞいい気分だろう。ベルサイユの屈辱も晴らせたそうじゃないか」

「街を壊されたくないから無血解放するなんて、フランス人も腰抜けだろう?そんな国がいままで世界中をイギリスと2分するべく争っていたなんて信じられるかい?ロンドンは間もなく落ちるだろう。我々の勝利だ」
クラウスはまた一歩、真木のほうに近づいた。

「内緒だけどね。僕らはロンドンを灰にできるほどの兵器を開発しているんだ。それが完成すれば、戦争なんてものは世の中から消えるのかもしれないよ」

「戦争が世の中から消える、だと?」

「僕は争いや暴力は好きじゃない。平和主義者なんだ。
ところで、君にプレゼントがあるよ。開けてみてくれ」
クラウスが指差した先に、赤いリボンを掛けられた白い箱があった。

警戒しながらリボンを解いて、中を開けると、そこには冷たくなった左手、
いや、よくみると精巧な義手が入っていた。

「気に入ってくれたかい?」
クラウスは言った。





inserted by FC2 system