紙コップのホットワインを買って、先ほどの場所に戻った時、結城中佐はいなかった。
辺りを見回しても、それらしき姿はない。

おかしい。
真木は紙コップを捨てて、走り出した。

しばらくベルリン市街を探して走り回ったが、結城中佐らしい姿はない。
息を切らし、路地裏の壁にもたれて、空を仰いだ。
雪が降り続いていた。

もしや、何かに腹を立てて、自ら姿を消したのだろうか。
その可能性がないではない。
だが、そうでなければ、誰かに連れ去られたことになる。

行きあぐね、自室に戻ってみた。
やはり部屋には戻っていない。暖炉の火は消えたままだ。
不注意だった。
自分がついていながら、こんなことになるなんて。
怒っていなくなってしまったのなら、いいが、そうでなく、拉致されたのだとしたら、何も追跡する手がかりはなかった。
まさかドイツ警察に届けるわけにも行かない。
真木は親指の爪を噛んだ。

なぜ、クリスマスマーケットに行きたいなどと思ったのだろう。
ここは敵地だということを、束の間忘れていたのではないか。
明け方。安楽椅子でまんじりともせずに考えていると、入り口のドアの下から滑るように手紙が差し込まれた。
はっとして、手紙を拾い上げて見ると、それは何も書いていない、ベルリン大聖堂の写真つきポストカードだった。

ベルリン大聖堂に来いということか。

真木は上着を掴むと、部屋を出た。





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