「貴様、大丈夫か」

声がした。
「実井・・・?ここは、どこだ・・・」
「病院だ」
「僕は、生きているのか・・・」
「生きているよ。良かったな。もっともたかが訓練で死なれても困るが」
「訓練?あれが?」
「だがもう少し助けるのが遅かったら死んでいたかもな。感謝しろよ、結城さんに」
「結城さんに?だがそもそも海に突き落としたのは奴で」

「知ってるよ。見ていたから。僕も結城さんに呼ばれて待機していたんだ。
ちなみに溺れた君を抱えて泳いだのは僕だぜ?真冬の海の人命救助はさすがに堪えたよ。そのあと人工呼吸をして、君の息を吹き返さしたのは結城さんだけどさ」

人工呼吸。
苦しかったから覚えている。肋骨が折れるかと思うほど押さえつけられて、唇から空気が吹き入れられた。そのあと、大量に飲んでいた海水は胃から逆流した。
意識が朦朧とする中で、わずかに心配げな顔を見た気がする。

「奴はどうした」
「君が無事なのを確かめると、病室を出て行ったよ。さっきまでいたけど・・・」
それから徐に、実井は思い出し笑いをして、
「それがさ、真冬の海で若者をボートに乗せるなんてって、さっき看護婦に怒られてたんだぜ?一般人は理解がないよな、僕らの存在に」

「本当に殺されるかと思った」
「家宅侵入がばれた後に起こる出来事をシュミレーションしておくのも悪くないって言ってたぜ。別に怒ってないってさ」
あっけらかんと実井は言い、

「ちなみに秘密の日記帳なんてものは存在しないらしいぜ。俺はそんなにマメじゃないって言ってたよ。本当かどうかわかんないけどね」







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