「おい、ミーシャ。今朝のコーンビーフは死んだ日本兵の人肉だってよ」

食堂で見知らぬ太った男が話しかけてきた。
新しく来た見張りだろう。こっちが子供だと思って、からかい始める。

「うへー、俺たちは日本兵の人肉を食べてるのか?臭くてたまらんぜ!」
隣の痩せた男が調子を合わせて、鼻をつまんで見せた。
「嫌なら食わなければいい」
俺が言うと、
「え?今何か言ったか?いやなら喰うなとかなんとか」
太った男は驚いたふりをして、俺の顔を覗き込んだ。

「あれまあ!よくよく見たら、お前、栄養失調ぎみのわりには可愛い顔してるんじゃねえか?今夜俺のベッドに来いよ。可愛がってやるからよ」
「うるせーよ、クズ」
軍隊にいて何が嫌かというと、この手の誘いだ。
まだ俺が幼いこともあって、向こうも本気じゃないだろうが、中には子供趣味の男もいて、ちっとも油断できない。
「そうつれなくするなよ。これからずっと一緒だろう?仲良くしようぜ・・・」
男は太った指で俺に触れようとした。

と、悲鳴が上がった。
何が起こったのかわからなかった。
次の瞬間には太った男は床を転げ回っていた。
よくみると、首にフォークが突き刺さっている。
背後に立っていたのは、

「ニコライ」
俺は驚いて目を見開いた。

「汚い手でミーシャに触るなよ」
ニコライが見たこともないような冷酷な顔でそう告げた。
俺の知らない顔だった。

男は一命をとりとめたが、ニコライは一週間独房に入れられた。
出てきたときはすっかり痩せてやつれてはいたが、変わらない調子で、
「やあ。元気そうだな、ミーシャ」
そう言って、俺の頭をぽんとはたいた。

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