「大統領・・・だって?」

冗談を言ったのだと思って、くすりと笑うと、
「あっ、笑ったな!こいつ!!」
ニコライは俺を羽交い絞めにすると、軽く首を締め上げた。
「痛い痛いって!だって、冗談なんだろう?」
「冗談なんかじゃない!本気なんだ!」
「だって・・・」
なれるわけない。
ニコライだって親を亡くしてたったひとりぼっちの天涯孤独の身の上だ。
何の後ろ盾もない俺たちに、大統領なんて、それは、遠すぎる夢だ。
「無理だと思ってるんだろ」
むっとしたようにニコライが言った。
「まあね」
「ちぇ、馬鹿にしやがって。じゃあ、お前の夢はなんなんだよ?」
「夢?」
ニコライが腕を緩めたので、少し楽になった。
「夢なんてないよ。生きていけたら、それで・・・」

「ミーシャ。夢を持たなきゃだめだ」

「夢なんて、両親がいて家庭に恵まれて、幸せな奴らが見るものだろう?」
「違うよ。俺たちみたいに何もない人間こそが、夢を見る権利がある筈だ」
珍しく強い口調で、ニコライは言った。
夢という言葉に興奮したのか、グレイの瞳がいつになくキラキラしている。
「そういうものなのか?」
俺にはわからない。わからなかった。
両親も妹も殺されて、なにもかも奪いつくされて軍隊に入るしかなかった。
生きていく為にはなにも選んだり出来ない。ただ食べて、安全な場所で眠るだけ。たったそれだけのことが、13歳にも満たない俺には酷く難しかった。
夢なんて・・・。


夢が叶うなら、もう一度お父さんに会いたい。
そう思ったとき、なぜかまた小田切の顔が浮かんだ。
小田切に抱きしめられた時・・・俺は、幸せだった・・・。
罠だったんだ。
だけど小田切を恨む気にはどうしてもなれなかった。

「あんたは気楽でいいよ」
大統領になったニコライを想像しようとしたが、うまくいかなかった。
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