『いろんなことがわかりましたよ』

僕は言った。

『僕は貴方がスイッチを入れてくれないと、貴方と話すことは出来ないんです。でも、仮想現実の中では貴方になんでもできる・・・』

「なんでも?」
結城さんは尋ねた。

結城さんと僕は向かい合って立っている。仮想現実の世界で。
足元には砂浜。ここは浜辺だ。ただし本物じゃない。

『なんでもです。僕はここで、貴方を自分のものにできる・・・』

「くだらんな」
結城さんは笑った。
『くだらないですか?僕が貴方を犯すことが』
「今の貴様は何でも出来る。世界中の資源をかき集めて、己の欲望を満たすことも出来る。人類を滅亡に追いやることさえな。なのに、俺を犯すだと?そんなレベルでしか物事を見れないのだとしたら、哀れだな」

『そうですね・・・今の僕にはなんでもできる・・・それが貴方の望みですか?僕を使って、世界を征服することが?陳腐なSF映画みたいに』
「テクノロジーの進化には興味がある。機械が人間を超えたとき、人類はどうなる?新たな種に、自らを託すのか、それとも・・・」
『多くの人にとっては、支配者になることよりも隷属を望むんですよ。支配されるのは心地いいですからね・・・僕もまた』

僕は両手を差し出した。仮想現実の中で、僕は結城さんを抱きしめた。
抱きしめた感覚はとてもリアルだ。感覚はほとんど視覚に左右される。錯覚だ。
足元に波が打ち寄せる。これも仮想現実・・・。

『貴方が望むなら、世界を奪ったっていい。それが貴方の望みなら、僕は世界中のインフラに侵入して、世界を破壊して回りましょう。ただし、条件がひとつだけあります』
「条件?」

『貴方を僕にください。僕はそれだけでいいんです』
景色が一変して、辺りは宇宙空間に満たされた。
結城さんの表情は変わらない。
それが、僕には物足らなかった。






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