ここは暗い。
そして静かだ。
突然、光が見えた。光の向こうに、懐かしい顔があった。
『結城さん』
画面の向こうに結城さんが映る。
「三好」
『結城さん・・・ここは一体・・・』
「三好。貴様は死んだ。脳波をコピーしたものをコンピュータに移した。それが、今の貴様だ。実体のない・・・思考だけの存在だ」
『なにを・・・言ってるんですか・・・』
実体のない、思考だけの存在?
僕は自分の手を見た。僕は確かにここにいる。ここに存在している・・・。
『そんなことをいって、また僕を嵌める気ですか』
声。
声が変だ。ノイズの混じる、機械のような声・・・。
「俺が見えるか?」
『画面の中に貴方がいます』
「画面の中にいるのは貴様のほうだ。貴様の精神だ」
結城さんの画像が歪んだ。
『僕の・・・精神・・・』
僕は結城さんに手を伸ばした。僕と結城さんの間には、なにか宇宙的な隔たりがあった。
「貴様は俺を恨むのだろうな・・・」
『僕が貴方を恨む?』
鸚鵡返しに尋ねる。結城さんは口をつぐんだ。
結城さんは何を言ってるのだろうか。
『何を言ってるんですか?僕をここから出してください』
「何度も言わせるな。貴様は死んだのだ。今の貴様は実体のない精神だ。コンピュータに閉じ込められて何処へもいけない・・・永遠に」
結城さんの手が画面に触れた。
僕はその手に手を重ね合わせた。
相変わらず僕と結城さんの間を隔てる壁は巨大だった。
真っ黒な孤独。
僕がその言葉の真の意味を悟ったのは、その瞬間だった。