甘利が店を出ると、街灯の下に木のりんご箱が置かれていた。
中から声がする。

中を覗くと、一匹の黒猫が、青い眼をこちらに向けていた。
まだ仔猫だ。
甘利は仔猫を取り出して、懐に入れた。

「甘利、なにしてるの」
背後から声がした。田崎だ。
「猫を拾った」
「猫?見せて」
田崎は近づいてくると、懐を覗き込んだ。
「うわ〜、可愛いな〜」
そして、猫を抱き上げて、顔を覗き込んだ。
「・・・誰かに似てるな」
「三好、だろ」
猫が三好に似てるのではなくて、三好が猫に似ているのだが、
「三好か〜確かに似てる」
田崎は嬉しそうに、猫を高く持ち上げた。
「あ、オスだ」

寮に連れて帰ると、田崎は猫のためにトイレと寝床を用意した。
そうして、飽きずに猫を撫でている。
「お前、猫ズキなわけじゃないって・・・」
「ええ、可愛ければ何でも好きですよ」
「お前ね・・・」
軽い嫉妬すら感じて、だが、確かに仔猫は可愛い。
犬派の甘利さえも、とりこまれそうだ。

「名前をつけないとな・・・」
「そんなん、ミケとかでいいだろう」
「三毛じゃないのにミケは変だよ。黒猫だ。三好にしようかな」
「三好はやめろ」
ぎょっとして、甘利は反対する。
「どうして?似てるっていったの、甘利だよ」
「そうだけど・・・じゃあ、ベートーベンってどうだ」
「ベートーベンよりは、クロスケって感じかな?」
「クロスケか・・・悪くない」

こんなに田崎が猫に夢中になるとは思わなかった。
だが、田崎はそういえば、鳩とか、小動物に弱いようだ。
いつもクールで冷血、いや、冷静な田崎には不似合いに思えるが。
あの猫の半分でも俺に優しくしてくれれば、何の不満もないのだが。
甘利は、無意識にネクタイを緩めて、ため息をついた。





inserted by FC2 system