「俺を抱けば思い出せる?実井ならともかく、お前と寝たところで、お前がなにか思い出すとは思えんがな」

俺が抗議すると、
「甘利先輩に勧められたんですよ。思い出したいなら波多野と寝てみろって」
「はあ!?」
甘利先輩め・・・。でたらめなことを。
「まあでも、味は悪くなかったですよ」
三好はけろりと言った。
まるでガムかアイスクリームを食べた感想みたいに。
「ああ、そうかよ・・・」

誰かと寝て、こんなにへこんだのは初めてだ。
よりによって会社の後輩。しかも相手は三好だ。
「これからいろいろお願いするかもしれません。波多野先輩」
にっこりと笑って恫喝。D機関・・・記憶がないだと?・・・最悪だ。

☆☆☆

家に帰って鍵を開ける。電気は消えていた。寝たのだろう。
時計を見ると、1時を回っている。

みのるが幼稚園に入ったときに引っ越した部屋は、寝室とリビング、洋室と和室があって、それぞれ実井と俺の書斎になっている。寝室は一緒だが、ソファで寝れば、別々に寝ることもできる。
俺は時間が不規則だから、多少遅くても怪しまれることはない。
俺はソファにどさりと身体を横たえた。
くそ、下半身が軋む。三好の奴・・・本気で弄びやがって。
滑らかな舌の感触がまだ肌に残っている。目を閉じると赤い唇が目に浮かぶ。

俺はもう一度目を見開いて、時計を見た。
それから、時計のしたに飾られた置物のマッチョな小人の像。
それは甘利先輩の北海道のお土産だった。最近の流行なのだそうだ。
どうせ俺がチビであることへのあてつけだろうが・・・。

突然、寝室から携帯の着信音がした。
こんな時間に誰だ?
不審に思っていると、実井が起きたらしく、何か小声で話している。
俺は寝室の前まで来ると、扉に耳を当てて、中の様子を伺った。
『うん・・・うん・・・わかった・・・大丈夫』
吐息のような声を漏らして、実井が電話を切った。
俺は、相手を問いただしたい気持ちで一杯だったが、その場を動けずにいた。


















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