みのるが幼稚園から泣きながら帰って来た時、実井は真剣に話を聞いていた。

「パパがふたりいるっていうのは、へんだって、みんないうんだ・・・」

「わかった」

実井が女装を始めたのは、その日からだ。
実井の女装は完璧で、誰にも見破れないほど女に見える。
そういえば、最初に会ったコンパでも、実井は女装をしていた。
完璧に女子高生に見えたっけ。
甘利先輩が口説こうとしていたくらいだ。

母性本能なんかあるはずもないのに、実井は実によくみのるの面倒をみた。
おしめを替えて、ミルクをやり、半年を過ぎてからは離乳食をこまめに作って。
実際、性格まで変わったような気がする。
偽装なのかと思うくらいだ。

俺はというと。
実井がみのるの世話にかまけて、俺のほうまでかまってくれないことにストレスを募らせていた。
幼い子供に焼きもちを妬くなんておかしいが、実際にそうだった。

「波多野さん。僕の邪魔をしないでください」
実井は冷たくそういった。
「だって俺たち・・・もう二週間も・・・」
「波多野さんの世話までできませんよ。身体はひとつきりですからね」
「実井」
「手伝えとは言いませんから、せめて邪魔だけはしないでください」

新聞を広げると、「子供が2歳になるまでの離婚率の高さ」という記事が目に付いた。
ぐむ〜。
実際に、お預けを喰らうのはキツイ。
セックスしたければ、実井の寝込みを襲うしかない・・・。
みのるを引き取ったのは俺なのに、この程度のことで揺らいでどうするんだ。
そう思うものの、実際疲れ切った実井の寝顔を見ていると、気持ちは揺らいでしまう。
俺は、実井に対してとんでもない暴力を振るっているようなもんじゃないのか?
実井は女装してまで完璧なママになろうと努力している。
俺は一体なにをした?
実井の女性らしい仕草にはっとして、欲望を募らせているだけじゃないか・・・。

俺は缶ビールを煽って、その缶を握りつぶした。















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