タクシーで真木の宿泊しているホテルに戻った二人は無言だった。

部屋は5階だ。エレベーターに乗り、部屋の前まで来ると、
「今なら引き返せますよ」
と真木は言った。結城中佐は平然と嘯いた。

「まだ教えていないことがある」

ドアが開いた。二人は中に入った。
照明は薄暗い。
簡単なベッドとサイドテーブル、椅子がふたつあるだけの狭い部屋だ。
豪華な装飾などはなにもない。殺風景といって良いほどだ。

「飲みなおしますか」
真木が言った。
「ボルドーのいい赤があるんですよ。10年物の」
言いながら、茶色い皮のトランクからフランス製のワインを取り出し、サイドテーブルの引き出しからコルク抜きを取り出すと、ソムリエのように優雅にくるくるとコルクを回し開けた。

「あっ、いけね、グラスがないや」
「グラスなどいらん」
結城中佐はそう言うと、ボトルを受け取った。

「そのまま飲むんですか?」
中佐がボトルに口をつけたのを見て、真木は怪訝そうな顔をした。
すると、中佐は真木の顎を軽く持ち上げて、口に含んだワインを、その唇に流しいれた。
ボトルが空になるまで、その動作を繰り返した。
真木の形のよい唇の端からワインの血のように赤い液体が溢れて、白い顎を伝わり、床に滴り落ちる。
空になったワインボトルがごろりと床に転がった。
真木は苦しそうに喘ぎ、美しい眉をひそめた。

「息ができない・・・僕を溺れさす気か・・・」
「そうだ」
真木のカラダを床に引き倒し、結城中佐はその上に馬乗りになった。

「人は酒を飲むとたやすくカラダを赦す。基本中の基本だ」

真木は顔を背け、中佐のキスを拒んだ。
「言っておきますが、僕は男と寝たことはありませんよ・・・」

「それなら好都合だ。誰にでも初めてと言うのはある。回数をこなせば嫌でも旨くなるものだからな」

結城中佐はそう囁くと、真木のベルトに手をかけ、片手で器用にベルトを外した。
そのまま、真木の下半身に顔を埋める。
「・・・あっ・・・」
真木の、吐息のような声が、闇に呑まれた。


















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