ドイツ。ドレスデン旧市街のパブ。
カウンターとボックス席がふたつあるだけの、狭い店だ。


「まだ拗ねているのか」
結城中佐に指摘されて、真木は顔を赤らめた。
「子ども扱いはやめてください。あんな恥をかかされて、怒るのは当然でしょう」
「あの程度の試験で落第とは、子ども扱いされても仕方あるまい」
真木は赤ワインの入った丸いグラスを煽った。
白い喉が、暗い店の中で驚くほどなまめかしい。
結城中佐はそれを見て目を細めた。

「カーテンの隅にドイツ娘がふたりいるでしょう?」
真木は挑戦的な態度で言った。
「アレを口説いて見せますよ・・・」
真木はふらりと立ち上がった。だいぶ酔っている。
「よせ」
結城中佐の杖が、真木の行く手を阻んだ。
「邪魔しないでくださいよ。何事も経験です」

「貴様はジゴロのなんたるかをわかっていない」
「・・・それなら見本を見せてくださいよ。僕は一度も貴方が口説くところを見たことがないんだから」
「いいだろう」
結城中佐は杖をしまうと、ゆらりと影のように立ち上がった。
立ち上がると上背があるので、小柄な真木はより一層小さく見える。

「ジゴロとは、こうやるのだ」
言って、結城中佐は真木を狭い廊下の壁に押し付けると、その唇を奪った。

ワイングラスが床に落ち、割れたガラスの破片が床に飛び散り、絨毯に落ちない紙魚を作った。

「あんたは、ずるい」

手の甲で唇を拭い、ずるずると床に座り込んだ真木はそう呟いた。


















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