翌朝。
薄いカーテンの隙間から光が差し込んでくる。

「なんで君は俺と寝たんだ?」

質問には答えず、マキはベッドで煙草をふかしている。
その横顔は冷たくて、先ほどベッドで見せた表情とはまるで違う。
陶器でできた白い仮面のようだった。

「君こそどうして僕と寝たんだ」
流暢なドイツ語。やはり、マキはドイツ語が話せる。
「それは・・・言っただろう?俺は君に興味がある、と」
「興味」
鸚鵡返しに言って、マキは形のよい唇から紫色の煙を吐き出した。
「それは、僕がスパイだから?」

「認めるのか」
俺の声は低くなった。
「君の財布を拝借したのは、中身を見るためさ。財布には持ち主の性格や生活状況がでるからね・・・とても参考になった。それに」
マキは煙草の先を灰皿に落とすと、
「君を怒らせてみたかった。人は怒ると本性が出る。どんなに隠していても」

「それで、俺をどうする気だ」
「友達になりたいと言ったね」
マキの声は澄んでいた。
「君はただ、君の手に入れられる情報を僕に伝えてくれればいい。そうすれば僕は、君の望むような報酬を君にあげる。金でもそれ以外でも」
「こないだのオレンジみたいにか」
俺は唸った。
「そうだね」

「・・・俺は君を当局に売ることだってできるんだぞ」
マキは静かに煙草を灰皿にもみ消した。

「僕と関係を持って、僕を当局に密告したひとは、まだ誰もいない」

「自信家だな」
俺は呆れた。マキは暖炉の上の置時計を見た。
「そろそろ行くよ」

俺は嫌な予感がした。
「・・・もうベルリンには戻らないのか?」
「まさか」
マキは不敵そうに微笑み、
「用が済んだら戻るよ。この部屋に」





























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