「嫌にしおらしいな、貴様らしくもない」

「弱気にもなりますよ、こう立て続けに身近で人が消えたりすればね」
真木は大げさに両手を広げて肩をすくめて見せた。

「昨日まで普通に暮らしていたはずの人々が、ある日忽然と姿を消す。
そんなことがもはや珍しくないご時世ですからね」

結城中佐の膝に寄り添うように背中をぴったりと当て、真木は暖炉の前のラグマットに長い足を投げ出し、肩膝を引き寄せるようにして両手で抱いた。
「これが、真っ黒な孤独という奴なのか」

暖炉の火がまた爆ぜた。
その炎を真木もまた見つめている。

「ねえ、思い出しませんか?僕がまだスパイ養成学校に入りたての頃、貴方の正体を突き止めたくて、貴方の宿舎に入り込んだことがありましたね」

「そんなこともあったかな。随分昔のようだが」

「忘れたとは言わせませんよ。あの日のことは」

3年前の東京。
あの日もまたこんな風に粉雪が舞う季節だった・・・。
真木が目を閉じると、その情景が甦った。

「僕も若かった」
真木は語り始めた。












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