ノイシュヴァンシュタイン城。
1869年にバイエルン王ルートヴィッヒU世の命令で着工した白亜の城で、「新白鳥城」の異名を持つ。中世騎士道物語への憧れとワーグナーのオペラへの情熱の詰まった城だが、王の死により未完の城となった。

田園風景の中にノイシュヴァンシュタイン城が眺められる有名な観光スポット、マリエル橋。
その上に、白いパラソルを差した金髪の少女エリスとクラウス・レーベンバッハは並んで立ち、その雄大で優美な眺めを堪能していた。
マリエル橋は山の中腹にあり、風が強い。

「傘を飛ばさないように、気をつけて」
クラウスは紳士らしく言った。
「貴方もクマを落とさないように」
エリス、いや真木は笑いながら言った。昨日購入した白いテディ・ベアを、クラウスは大事に抱えている。
山の麓からつむじ風が巻き起こり、真木の白いドレスはふわりと風を孕んだ。
「これは・・・失礼」
クラウスは慌てて顔を背けた。

外交官の娘とは、このマリエル橋で会うという。
「それでクマを持っていらっしゃったの」

「夕べ発見したんですが」
クラウスは言った。
「このクマ、御腹を押すとおしゃべりをするんですよ。よくできてると思いませんか?さすがシュタイフ製だ値段だけのことはある、と僕は感心して。あ、と、こんな話、つまらないですよね」
「いいえ、興味深いですわ。なんていいますの」
「おはよう、とか、おやすみ、とか、簡単なドイツ語ですよ」
「可愛い」
真木は微笑した。
大の男がクマのぬいぐるみを抱えている様子は、なんとなく愛嬌がある。

「クラウスおじさん」
5歳くらいの少女が駆け寄ってきた。
「アントワネット。大きくなったね」
「わあ、クマさんだ。プレゼント?ありがとう!」
アントワネットと呼ばれた少女は、嬉しそうにクマに抱きついて、
「あたしこれ、欲しかったの!」
と叫んだ。
「それは良かった。ちょっと早いけど、お誕生日プレゼントだよ」
クラウスは、そう言って蒼い目を閃かせた。

少女の姿が見えなくなると、クラウスは言った。
「さあ、では行きましょうか。新白鳥城へ」


























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