「上着を脱げよ。汚れるといけない」
真島はさりげなく、俺の上着を脱がせた。
それをハンガーにかけ、カーテンレールにかけた。

「待てよ」
ネクタイを外そうとする手を、止めた。
「なんだ、まだなんかあるのか」
「俺は下は嫌だ。やるなら、上にしてくれ」
銜え煙草をしていた真島の煙草がぽろりと落ちた。

「上って。本気なのか?」
「本気だ。こないだは酷い目にあった。二度とごめんだ」
「あのな。神永」
真島は靴で煙草を消すと、俺の肩に両手を置いた。

「はじめてってのは、全然良くないもんなんだ。小説に書いてあるのは、全部嘘なんだ。浮気はしてないよな?だったら、今日は二回目なんだから、うんと優しくしてやるし、俺が知ってるすべての技能を試してやるよ。きっと気に入る」
真島はまるで子供に言い聞かせるように、優しく説明した。

「俺は・・・猫は嫌だ」

「君のプライドはいったん俺に預けてくれ。悪いようにはしないから」
真島はそういって、俺をマットレスの上に押し倒すと、ネクタイを外した。
そのまま、ボタンを外し、シャツを引き剥がす。

「こないだも思ったけど、あんた、本当にいい身体してるよな。一体何をしたらこんな体になれるんだ?」
「どうでもいいだろ、そんなこと」
訓練のことは、あまり言いたくない。
「男の俺でも惚れ惚れするよ。君がジゴロじゃなくて良かった。俺が商売あがったりだからな」
耳元でささやき、真島は耳たぶを舐めた。

「見せてやるよ。本物のジゴロというやつを」

真島と俺の間に時間が消えた。

外は雨。
おれのからだは、隅々まで嘗め尽くされて、残っていた理性も一緒に溶かされた。

真島は、さすがにプロだった。
俺の喘ぎ声は、コンクリートの壁に吸い込まれた。

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