真島のアパートは、駅から離れた、寂れたスラムの中にあった。

廃墟のようなビルの中で、名札もかかっていない。
「・・・ここなのか」
「いっとくが、恋人を連れてくるのは初めてだ」
誰が恋人だ。
気障なセリフも商売用だろうと思うが、真島はなんか憎めない男だ。

ドアには鍵もかかっていない。
「物騒じゃないか。誰かいるのか?」
「・・・あんた、お坊ちゃん育ちなんだな。この程度で驚いて」
真島は逆に感心している。

中に入ると、真っ暗だった。電気をつける。
むき出しのコンクリートの壁。部屋は二部屋あるだけだ。
白いマットレスが置いてある。家具はそれだけ。あとはカーテンレールに服が大量にかかっていた。カーテンもない。服が、カーテン代わりらしい。
「これじゃあ、恋人を連れて来れないな」
俺が呟くと、
「だろう?女には夢を見せないといけないからな」
真島はしれっと答える。

「・・・あんた、女専門のジゴロだったはずだろう?なんで宗旨替えしたんだ」
「・・・あんたらのせいだよ。俺が男に目覚めたのは・・・あの学校に出入りしてからおかしくなった。三好にも当てられてね」
三好、か。
まあ、わからなくはない。

「兄ちゃん」
急に、奥の部屋から声がした。誰もいないと思ったのに、子供が出てきた。
「サトシ。きてたのか」
「なんだ?弟か」
「いや、血のつながりはない。街のクソガキだ」

「誰だ?その人」
「新しい恋人」
「男じゃん」
サトシは、うへー、という顔をした。
「小遣いやるから、マリさんのとこへでも行ってろ」
「えー?あそこはいまややこしいんだよ」
「じゃあ、マークのところへでも行ってろよ。とにかく、邪魔するな」
真島はサトシに小銭を渡した。
「ちぇっ、雨なのにーーー」
サトシはそういいながらも、俺を睨んでから、外へ出て行った。

「おい、いいのか?追い出すのは可哀想だろ」
「・・・お坊ちゃん・・・」
真島は呆れ顔で、
「あんた、お茶でもしにきたのか?サトシがいたら邪魔だろ。それに、勝手に入り込んでくるだけで、別に俺が保護者なわけじゃない」
「でも、近所の子なんだろ」
「ああ。家のない子だ。野良猫みたいにふらふらして、適当なところで眠るんだ。かわいそうだが、蹴飛ばしとくしかないんだよ。俺だって似たようなもんだしな」
「あんたは、立派なジゴロじゃないか」

「しがない街のゴロツキさ。まぁ、ダニにしちゃ大きいほうだがね」
真島はにやりとした。






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