真島は俺を路地裏に連れ出した。

「なにを」
言いかけた唇は再び塞がれた。
熱い、情熱的な舌が、俺の中に入り込んでくる。
背中はビルのレンガ塀に押し当てられ、逃げ場はない。

「・・・まて・・・よ!・・・」
俺は、真島を引き剥がすために、両手を突っ張った。
「焦らすなよ」
真島は言った。肩で息をしている。
夜道で見る真島は、鎖を断ち切った黒い野生動物みたいだ。
鋭い爪を隠そうともせず、俺に襲い掛かろうとする。

「三好は言ってたよ。ジゴロのたわごとなんて本気にするなって」
「・・・三好が?」

「あんた、言ったよな?三好が忘れられないって。その舌の根も乾かないうちに俺を口説くのかよ?さすがジゴロだよな」

「あぁ、俺はジゴロだよ。12の時からこれで喰ってる。だから別に節操がないといわれても気にしたことはない。本当のことだからな」
真島は自分を指差して、見栄をきった。

「あんたはそれでいいだろう。でも俺は・・・」

「いい加減、認めたらどうなんだ。君は、俺に惹かれてるんだろう」

「馬鹿言え。自惚れるのも大概に・・・」

真島は、いきなり俺を抱きしめた。
別に振りほどくのは簡単だ・・・振りほどいて逃げればいい。
だが、それができなかった。

「神永。君は寂しいんだ。その寂しさを、俺で埋めようとしている。人は、それを恋と呼ぶものなんだ・・・」

ジゴロの口説きも、なかなか説得力がある。
先ほどからまばらに降り出した雨が、いよいよ本格的に降り出した。
俺たちは雨に打たれながら、ずっと抱き合っていた。

「俺の部屋に来ないか?」
真島はそう誘った。



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