「随分遅かったな。昼帰りか?」

三好のことを考えていたら、ちょうど寮から三好が出てきた。

「三好」
俺は痛む腰を抱えて、やっとの思いで戻ってきた。
「どうした?二日酔いか?」
三好が可愛らしく眼を丸くする。相変わらず、高貴なシャム猫みたいだ。

「・・・三好、貴様、真島に会ったのか?」
「真島?って・・・あぁ・・・真島さんのことか」
三好は微妙な表情をした。
「仕事でちょっとね。・・・真島さんと一緒だったのか?」
「違う」
俺は嘘をついた。
「ただ、ちょっと、気になっただけだ」

「ふうん?貴様が真島さんを気にするなんて、変だな」
三好は鋭い。
だが、まさか、貴様の代わりに抱かれたとはいえない。

「昨日偶然会って、ちょっと話しただけだ。・・・貴様のことを言っていた」
「へえ、なんて?」
「貴様が忘れられないんだ、とよ」
言いながら、なぜか俺は胸が痛んだ。

「仕事でちょっと会っただけなのに、忘れられないなんて、妙だな」
三好は笑った。
「向こうは違うことを言ってたよ」
「本気にするなよ。ジゴロのたわごとなんか」
ジゴロのたわごと、ね。
三好にはその程度なわけだ。

「三好」
「悪い、結城さんに呼ばれてるんだ」
三好は軽く片目を瞑って、俺の横を通り抜けた。

結城さん、か。
貴様はいつもそれだ。
自分だけが結城さんのお気に入りだと思っている。

届かない思いを抱えているのは、俺も真島も一緒なのかもしれない。
俺だって、結城さんに惚れているのに、田崎を抱いた。
身体だけでいいと思ったその田崎にもふられて、真島に抱かれた。
肉体関係とは不思議なものだ。

愛なんてないはずなのに、なぜ、胸が痛むのだろう・・・。




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