「似てるよ。君も。三好と」

「嘘だ。似てなんかいない」
「いや、似てる。学校ってところは、生徒の顔は似てくるもんだ。まあ、俺も学校に詳しいわけじゃないが、女子校なんかは顕著だな。制服なんて着られたら、見分けがつかなくなるくらいだ」
言いながら、真島はネクタイを締め始めた。

「つまり、貴様は、俺が三好に似ているから、俺を口説いたのか」

「似ているって顔じゃない。生真面目でプライドが高そうなところとか、それでいてどっか儚く散ってしまいそうな青年らしさとか。まぁ、俺も学がないから、うまい言葉は見当たらないが、要は雰囲気だな。あそこの学校は異様だよ。いかにもエリートみたいな品のいいきれいな顔ばかりそろえて、ジゴロの講習だもんな。俺が下ネタ言っても誰も笑わないしな。あんなに真面目に聞かれると、こっちが恥ずかしくなる」

「ちょっと待てよ」
俺は叫んだ。
「貴様は、あそこにいた生徒なら誰でも良かったってことか!?」

「そう悪く取るなよ。俺は三好に会いたくて、あのバーに張ってたんだ。あそこが君たちの根城だってことは、噂で聞いていて知っていたからな。ジゴロってのは、街のことは大概知ってるもんなんだぜ。くだらねぇと思うだろうが」

そうだったのか。偶然にしちゃ、できすぎだとは思っていた。

「たまたま君がいたのは、勿論偶然だが、それがべろんべろんに酔っ払って、俺を誘惑するもんだから、ついいつもの癖で、このホテルに連れ込んだんだ。でも、あんた運がいいよ。相手が俺でなかったら、どうなってたかわからんぞ」
「・・・これ以上最悪なことがあるっていうのか・・・」
俺が睨んでも、真島は平気な顔で、

「そりゃ、あるよ。強盗だったかもしれん。この辺りは物騒だからな。俺がホンモノのごろつきだったら、今頃東京湾に浮かんでいただろうよ」
さらりという。
脅しているわけではなく、ここは本当にそういう街なのだろう。
だが、俺はラッキーとはとても思えない。
真島にやられた、なんて、誰にも知られたくなかった。

「俺はあんたを殴りたい気分だ」
「そうだと思った。殴られないうちに出て行くよ。あんたの気が変わることを祈る。俺に会いたければ、あのバーに来てくれ。・・・殴るのはなしでね」

真島は、上着を手に取ると、そのまま振り向かずに出て行った。




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