「はじめてにしては、悪くなかったよ」

その言葉は、俺のプライドを酷く傷つけた。

「おい、初めてってなんだ。誰に向かって言ってるんだ?」
俺が真島のシャツを掴み、噛み付くように言うと、
「・・・間違っていたならすまないが、君はどう見ても経験がなかった」
「なんだと?」

立ち上がった瞬間に、強烈な腰の痛みを感じた。

「おい・・・なんだよ、これ・・・」
激痛に顔をゆがめて、真島を見ると、
「だから。ねこははじめてなんだろ?最初に大丈夫か?と聞いたのはそれだ」

痛い、というレベルじゃない。俺は腰を抑えて、床にうずくまった。
「ほら、いわんこっちゃない」

俺は這うようにしてベッドに戻ると、横になった。
ねこははじめて・・・。
言われるまでもなく、俺はいつも抱くほうで、抱かれたことはなかった。
少し、いや、だいぶ酔っていたとはいえ、真島に抱かれた。しかもはじめて。
顔見知りとはいえ、ほとんど行きずりといってもいいくらいの男に。

「そんな顔をするなよ」
真島が言った。
「どんな顔をしてるって?」
「後悔してますって顔だよ。結構傷つく」
傷つくのはこっちだ。
年端もいかない若造みたいにあしらわれて、しかも、ただのジゴロなんかに、俺のプライドはズタズタだ。


「悪くなかったって、褒めたつもりか?悪いけど、全然嬉しくねーよ。全く覚えてないし。いっそ夢なら覚めて欲しいくらいだ」
「そこまで言うことないだろう?夕べはお互い愉しんだんだし、君なんか・・・」
「君なんか、なんだよ」
「・・・いや、なんでもない。もうよそう」
真島はそういって、煙草を銜えた。
そして、煙を吐きながら、

「俺はつくづく、君の学校の生徒には嫌われるんだな」
そういって、苦笑した。


inserted by FC2 system