目が覚めると、視界がぼやけていた。
頭部に違和感。なんだこれは・・・ヘルメット?
いや、ガスマスクか・・・。

「おはよう。甘利。いい夢見れた?」
田崎の声だ。
見ると、確かに田崎だ。
いつもの無表情だが、なにかがおかしい。

「た、田崎・・・。なにこれ。マスク?」

「ドイツ式のガスマスクを加工したもので、製作したのは瀬尾さんだけど、頭部に刺激があると、毒ガスが吹き出るから気をつけて」

「はあ!?毒ガス!?刺激ってなんだよ!?」

「つまり、なにかに性欲を感じたりして、頭部の血流が良くなると、それに反応して毒ガスが中に吹き出る。5分で死ぬから」

「ちょっと待て!!なんだってそんな・・・」
言いながら、俺はだんだん声が小さくなった。

理由はわかっている。波多野との一件が漏れたのだ。
嫌な汗が脇の下を濡らした。

「ちょ・・・田崎、こんなもので俺を洗脳するのか・・・?それとも、殺すつもりか?」

「ふーん、自覚はあるわけだ」
田崎は聞いたこともないほど冷たい声で、

「波多野に聞いたら、誘惑はしてないって言うんだよね。あの状況では嘘はつけないだろうし・・・誘惑もされてないのに、波多野を押し倒したんだったら、たぶん性欲異常という病気だろうから、それならこれで治せるって、瀬尾さんが・・・」
「治す!?こんなのしてたら、そのうち性欲もなくなるんじゃねーか?」

「そうだよ。ありていに言えば、勃たなくなるから、誰彼構わず押し倒すってこともきっとなくなるんじゃないかなぁ・・・」
「待て。言い訳をさせてくれ、俺は別に病気じゃない!!」

「病気じゃない?単なる浮気だって言いたいの?それなら、むしろマスクだけだと心配だから、波多野につけたのと同じのを、甘利にもつけてあげようか」

田崎が取り出したものをみて、俺はのけぞった。
「どう?お揃いでしたら、可愛いかもしれないよね」

血も凍るような田崎の冷たい声に、俺は心底ぞっとした。





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