<騒ぎがあったようだな>
猫は言った。

「波多野と甘利ですよ。なんかごたごたしてたみたいで」
と僕が言うと、
<おかげで面白いものも見れた>
と猫が言った。

「佐久間さん、猫になって、性格歪みましたね?」
<そんなことはない。俺は真っ直ぐだ>
「ほら、自分で真っ直ぐとか言ったりして。以前の佐久間さんならそうは言わなかったはずだけど」
僕が微笑すると、
<そうかもな。まあ、仕方ない。この身体じゃなにも思いどうりにはならないからな・・・貴様を抱きたくても・・・>
「抱いたじゃありませんか」

<あれは夢の中だ。夢の中で貴様を抱いたんだ・・・>
「夢でもリアルでしたよ。熱さも寒さも感じたし・・・痛みさえあった」

猫は欠伸をした。そうして、後ろ足で耳を掻いた。

<それより、最近結城さんの視線を感じるんだよな、どこにいても。なにをしていても・・・きっと、俺を追い出すつもりなんだろう>

「結城さんは貴方がスパイなんじゃないかって疑ってるんですよ。催眠術は猫にもかかりますからね。敵国のスパイかもしれないでしょう?」
<催眠術なら覚めて欲しいよ>
「催眠術とは妄想が現実を書き換えることなんだそうです。そういう意味では、ある意味催眠術状態ですね。僕達は」
<俺の存在が妄想だと?>
「猫としゃべってるんですから、きっと妄想ですよ。下手したら狂人扱いだろうな」
僕は肩をすくめた。


<あのベルトはいいな。貴様に嵌めておきたい>

「冗談でしょう?冗談にしてもどうかと思いますよ。僕はあんなのごめんですよ。波多野は似合っていましたけどね。奴は生粋のマゾですからね」

本当に性格歪みましたね。
僕はそう呟いて、猫の額を指ではじいた。






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