「なんですか、藪から棒に」

三好の部屋に飛び込むと、三好はちょうど本を読んでいるところだった。
「三好っ!ねこ、猫はどこだ!」
「猫?ああ、猫ならさっき、そこのドアから出て行きましたよ」

言いながらも、三好の目は丁度俺の下半身を凝視している。
「変わった趣味ですね。もっとも、貴様は常に変わった趣味だが・・・」
「俺の趣味じゃない!実井に嵌められたんだ!それで鍵を探して」

「鍵?」
「鍵がないと外れないんだっ!恋に狂ったキリスト教徒が発明した貞操ベルトだ!」
「鍵ってこれですか?」

三好が人差し指でつまんでいるものは、確かに鍵だった。

「それだ!寄越せ!」
「渡してもいいが、条件があります」

三好は、鍵を天井に高くほおり投げて、左手で握った。
「条件?」
「この部屋にある盗聴器を全て外すこと。それから、今後一切盗聴器を仕掛けないこと。以上です」
「・・・・・・」
なぜばれたのだろう。俺がいぶかしんでいると、

「昨日、甘利が来て、貴様、猫と寝てるのか!?って、凄い剣幕だったんですよ」
三好はあっさりと言った。
甘利の奴・・・脳みそまで筋肉なのか?

「僕が猫となにしようと、別にいいでしょう?結城さんならともかく・・・」
三好はぶつぶつと独り言をいい、
「とにかく、頼みましたよ。鍵はほら」
投げて寄越した。

鍵穴は尻のほうにあった。自分では手が届かない。
「仕方ありませんね。僕が開けますよ。なんだか妙なシチュエーションだけど」
三好にあけてもらうのは屈辱だったが、いつまでもこの格好でいるわけにはいかない。俺は大人しく鍵を渡した。
「ほら、取れた。まったく、D機関員がこのザマですか?修行が足りないな」

言いたい放題言われても、一言も返せない自分が悔しい。
鉄のベルトから解放された下半身は、風がすうすうと吹きぬけた。







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